イームズチェア ヴィンテージと現行モデル徹底比較 | インテリアショップvanilla

ヴィンテージと現行品

イームズチェアのヴィンテージと現行モデル

1950年代から製造されているイームズシェルチェア。現在は2種類のシェルチェアが流通しています。
1950年代~90年代までに製造されたハーマンミラー社製「ヴィンテージ」と、同じくハーマンミラー社で現在製造されている「現行モデル」。ヨーロッパではVitraが現行品の製造販売を行っています。
ここではシェルチェアの歴史に触れつつ、ヴィンテージと現行モデルの違いについてお伝えしようと思います。
リプロダクトとの違いは【イームズチェア オリジナルとレプリカイームズ徹底比較】を参照ください。



そもそもイームズのシェルチェアって?

ヴィンテージ グリーンとイエロー

1940年代からデザイン活動をしていたイームズ夫妻は成形合板以外の素材でチェアを作成しようとしていました。当初は金属で「シェル(背座一体型)チェア」を作ろうとしていた彼らでしたが、そんな彼らの前に新しい技術・素材が現れます。
それは「FRP」という、ガラス繊維で補強したプラスチックで、第二次世界大戦中に米軍が開発した素材でした。金属よりも軽くて丈夫な上ローコスト。技術が発達したおかげで、1950年、イームズの代名詞とも言えるシェルチェアが誕生したのです。
誕生から現在までにいたるまで、一般家庭から公共施設と様々な場所で使われたシェルチェアは、数種類のレッグのタイプやカラーバリエーション、さらにはファブリックの有無など何通りもの個体が市場に流通しました。


イームズチェアを構成する要素

サイドシェル、ベース、グライズ、ショックマウント・・・・などなど、イームズシェルチェアを語る以前にまず色々な名称を覚えなければなりません。イームズチェアを取り扱うショップではDSRやDSX、RARなどアルファベットでの表記がされていたりしますが、名称を覚えておけばこのアルファベットを見るだけでイームズチェアの形や種類がわかるようになりますので、覚えることができればイームズ通の仲間入りです。

イームズチェアの形

サイドシェルとアームシェル

まずチェックしたいのは基本となる形です。肘掛けの有無で名前が変わります。左が「サイドシェル」、右が「アームシェル」です。当時はアームシェルが先にデザインされていました。

各部の名称

各部分名称

次に各パーツの名称です。イームズチェアは大きく分けると「シェル」と「ベース」の2つの部分に分けられます。シェル部分は上記の通りサイドシェルかアームシェルの2種類。中にはアプホルスターと呼ばれるウレタンとファブリックが張られたものがあります。ベース部分は後述しますがいくつか種類があり、脚の先端の接地面に「グライズ」と呼ばれるパーツが取り付けられています。シェルとベースは座面裏に取り付けられた「ショックマウント」というパーツを介して接続されています。マウント部分に関しては「裏面の違い」で詳しくご紹介しています。

ベースの種類

シェルチェアには用途に合わせて数種類のベースが開発されました。
現在まで作られているタイプもありますが、中には現行モデルでは廃盤となってしまった物もあります。ちなみにヴィンテージのレッグは経年変化により損傷が激しいものが多いため、現在では日本国内でオリジナルをもとに製作されたレプリカのベースを付けて販売する方法が主流となっています。

【ロッドワイヤーベース】

DSR、DARのベース。
細いロッドワイヤーを組み合わせたベース。その見た目から通称"エッフェルベース"と呼ばれ親しまれています。現在のイームズチェアの中では1番オーソドックスなベースです。

【ダウェルレッグベース】

DSW、DAWのベース。
木部分が加わることで耐久性がプラスされ、木の温もりがインテリアに柔らかい印象を与えてくれます。その外見から木製家具との相性が良いです。

【Hベース】

DSX、DAXのベース。
数種類あるベースの中で、1番シンプルな形状。元々はX型をしていましたが、強度改善のためH型に変更になりました。DSX、DAXの「X」はその名残です。

【スタッキングベース】

DSSのベース。
公共施設などで使われる、重ねて収納(スタッキング)ができるベース。横にフックがあるので連結もできます。 サイドシェルでのみ選べるベースです。

【ローワイヤーベース】

LARのベース。
その見た目から「あやとり」という意味を持つキャッツクレイドルと呼ばれるベース。低めの座面とワイヤーを組んで設計されているため、LTRTやETRTとの相性が良いです。現行品ではアームシェルチェアのみに使われますが、ヴィンテージではサイドシェルにレプリカレッグを付けることもできます。

【キャスターベース】

キャスターベース

PSCC、PACCのベース。
座面の高さ調整が可能で、回転もスムーズ。座面高をかなり低めに設定できるため女性にもおすすめ。※現在当店では販売を見合わせております。

【ロッカーベース】

RARのベース。
ロッキングチェア用のベースです。1脚あればまるで海外のインテリアに。現行品ではアームシェルチェアのみに使われますが、ヴィンテージではサイドシェルにレプリカレッグを付けることもできます。


vanilla mag


気になる価格の違い

当時のヴィンテージ品から現在作られている現行品までイームズチェアを買う選択肢は多岐に渡ります。せっかくなら好きな形・種類・色で購入したいと誰しもが思いますが、そこで気になる価格面。ヴィンテージと聞くと高いイメージがありますが、必ずしもそうではありません。ヴィンテージ品は商品の状態や希少性などで価格帯の幅が広く、中には現行品よりも安価に入手できる場合もあります。現行モデルは同じ現行品でもポリプロピレン製かFRP製かでも大きく差があり、ベースの種類でも価格が変わります。

イームズのアイテム一覧


ヴィンテージの魅力《年代別の特徴》

長い期間製造されていたシェルチェアには年代別の特徴があり、それぞれの特徴から大きく分けて1st、2nd、3rdと分けられます。

■1st 1953~1955
シェルの製造をゼニスプラスチック社、販売をハーマンミラー社が担当。
座面裏にゼニスプラスチック社のステッカーが貼られています。
当時高価だったプラスチックの使用をおさえるため、他年代と比べ最もグラスファイバーが多く使われており、シェルがやや薄くなっています。

■2nd 1955~70年代頃
製造・販売をハーマンミラーが担当。
シェル裏側にはハーマンミラー社のロゴと大文字の社名のエンボス(刻印)が入っています。
ベースを固定するマウントポジションが2種類(ナローマウントポジション、ワイドマウントポジション)あり、計8カ所のマウント接着位置を持ちます。シェルの補強、張り地用パイピングを留めやすくするためにエッジが1stよりも深くなっています。
※今回の比較にあたり、撮影はこの2ndモデルを使用しました。

■3rd 1970年代~90年代頃
ロゴのエンボスが無くなり、大文字だった社名が楕円の枠の中に小文字で表記されるようになります。マウントポジションはナローマウントポジションに統一され、グラスファイバーの量は他年代に比べ大幅に削られています。


素材について

当初シェルチェアはFRP素材で作られていましたが、この素材はリサイクルができないなど、環境問題への配慮により製造を一旦中止せざるを得ない状況になりました。
しかし、その後ポリプロピレンという、現在のシェルチェアに使われているリサイクルが可能な素材を使い、ドイツのヴィトラ社がシェルの製造を開始。そして2010年末より製造元がVitra(ヴィトラ)社からハーマンミラー社に変更となりました。

FRP製のヴィンテージシェルには表面にツヤがありグラスファイバーが見えます。
それに対しポリプロピレン製の現行モデルは表面はつや消しのマットな仕上げとなっています。現行モデルのほうが柔軟性があり、軽く叩いたときに現行は「コンコン」と鈍い音、ヴィンテージはグラスファイバーの固さを感じる「カンカン」と高めの音がしました。そして2014年には環境問題をクリアしたFRP製のイームズチェアが復刻し、現行品でもヴィンテージの風合いが楽しめるようになりました。


寸法について

■幅の違い

比較:幅

正面から。微妙ですが、幅はややヴィンテージが広いです。座面の角度ですが、見た目には現行モデルが下向き、ヴィンテージが上向きといったように感じられます。

■座面・全高の違い

比較:座面

真横から。やはり座面に大きな差が出ます。
ヴィンテージに比べ現行モデルは座面前方の隆起から、座面奥の一番低い所への落差が小さくなりました。
このため太ももに当たる部分がヴィンテージに比べて低くなり、日本人の体型にもカバーできるようになりました。これはヴィンテージが当時アメリカ国内での販売を専門にアメリカ人の体型に合うサイズで製造されていたのに対し、現行品はアメリカ国外にも販売の目を向けられるようになったためです。

■エッジの違い

ヴィンテージのエッジ

現行モデルのエッジ

今回撮影に使用したヴィンテージシェルは2ndモデルのため、エッジの反りが現行のものに比べて深く大きいです。
ヴィンテージは素材の薄さをカバーし、強度を上げるためにエッジを深くしていましたが、現行モデルは素材の改善と厚みが増し、全体の強度が上がったためエッジの加工が最小限で済むようになりました。

■裏面の違い

ヴィンテージの裏面

現行モデルの裏面

ヴィンテージシェルにはショックマウントが接着されています(今回撮影に使用したヴィンテージは2ndモデルのためエンボスは大文字の社名とロゴ、8カ所のマウント接着位置が確認できます)。
対して現行モデルはマウントが一体型となり、その部分にナットが埋め込まれています。ヴィトラ社からハーマンミラー社への製造元変更によって裏側のデザインにも変更があり、枠の中にハーマンミラー社のロゴ、イームズオフィスのロゴ、イームズのサインが横並びに配置されています。

LARF現行品

LARF現行品

復刻した現行品のFRP製のイームズチェアはヴィンテージのシェルチェアの質感に近く、裏面のショックマウントは当時の構造を踏襲しつつマウント自体はサイズアップしています。


どっちを選べば良いの?

ヴィンテージ グリーンとイエロー

以上がヴィンテージと現行モデルの違いです。
ここまで読んでくださった方はこう思うはずです。「最終的にどっちを選べば良いの?」と。これは使う方の目的によってどちらが良いかは変わってきます。

イームズDAR

例えば「毎日ガンガン使いたい!」、「一度には買えないけど、どんどん同じ色を増やしたい!」そんな人には現行モデルがオススメ。ヴィンテージはやはり製造されてから年数が経っていますので、耐久面では現行モデルには劣ります。また同じ色・同じ状態の物を探すことは難しいため、数を揃える面でも現行モデルにメリットがあります。

イームズLARFネイビーブルー

そしてその現行品の中でも2014年に復刻したFRP製のイームズチェアは実用性とヴィンテージの風合いの両方を持つハイブリッドな存在です。完成されたヴィンテージではありませんが、自分でヴィンテージを作り上げていく楽しみがあります。

クリムゾンレッド

とはいえ、ヴィンテージが劣っているわけではありません。数十年経ったからこそ出てくる独特の雰囲気で、ポンとオブジェのようにも使えます。
「買うなら元祖のモデルを買いたい!」これは現行モデルには出せない味だと思います。素材や形を変え、時代と共に改良、いわば進化を続けてきたモダン(近代)デザインの象徴とも言えるシェルチェア。ヴィンテージを「古き良きもの」とするなら現行モデルは「次の時代に向けた今のもの」と言えるかも知れません。

古いから格好いいヴィンテージと、「今」のデザインを自分で10年後のヴィンテージに育てる現行モデル。どちらもそれぞれ良い所があります。どのようにお気に入りの家具と向き合うか。自分が1番満足できるモデルを選んでいただければと思います。

イームズチェア

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